マンガレビュー 11月


「六識転想 アタラクシア」 駕籠真太郎 太田出版



お話の80%はインナースペースを舞台にしています。
いかにもCGが似合いそうな画面でありながら、全て手書きです。
その姿勢はまるで修行のようです。
精神体のキャラクター一つ取っても、なぜこれほど手の込んだ造形にする必要があるのでしょう。
この人のお話は全て、正常と言える人間は出てきません。
人の心の深淵を、いかに描写出来るのかが命題なのでしょう。
きっと電波系の方の世界観はこんな感じかも知れません。
引き込まれないように、気をつけて読みましょう。


「あゆみ」 須藤真澄 エンターブレイン



一点鎖線の輪郭こそが、この人をオンリーワンたらしめています。、
なぜこんな描き方をするのか疑問でした。
この本には、未収録を含めたかなり初期のものも載っています。
彼女のルーツはどの辺にあるのかとHPを覗いてみますと、尊敬する漫画家は
吾妻ひでお、高橋葉介、陸奥A子だそうです。
なるほど、最初期の絵を見ますと、まさにこの三つをブレンドした感じです。
ここから「何となく」一点鎖線に変えるところから、ブレイクスルーしたわけです。
ファンタジーで優しげなイメージで受け取られることが多いのですが、
目は黒目だけで瞳は描いてありません。
このあたりに、作者のシニカルで屈折した心情がうかがわれます。
「全国博物館ルポ」(実は大ウソ)には、誰しも完全に騙されます。
だから決して少女マンガの枠に収まることはないのです。


「フランケンシュタイナー」 稲光伸二 小学館



小学館が「アフタヌーン」対抗のため、総力を結集して世に送り出した「イッキ」に連載されていました。
この本、張り切り過ぎて「ガロ」方向まで一線を越えてしまい、売れていないようです。
その本の中で、一番好みだったのがこれ(というかこれだけ)でした。
超非行女子高生と、超独善政治家親父との戦いの物語です。
スピーディーな展開、迫力あふれる描写、さすがに2年も準備期間を置いただけのことはあります。
ところがこれ、この巻でおしまいです。
素人的に考えても、話の膨らみよう次第で5巻ぐらいは引っ張れそうな気がするのですが・・・・。
予定通りならもったいない、もし打ち切りなら「イッキ」の未来は暗いです。


[「超少女明日香 式神編」 1 和田慎二 メディアファクトリー



本当に古くて長い連作ストーリー物です。
今まで掲載誌が何度変わったことでしょう。
今となっては、トレンドからかなり外れたクラシカルな絵なのですが、
ストリーテラーとしての腕は超一級です。
特に引きの強さはサイコーです。
今回は、今流行の陰陽道を取り入れる事も忘れておられません。
横山光輝の正統な継承者と言うところでしょう。


「不思議な少年」 1 山下和美 講談社



時を越え国を越え、不変の存在としてののごとき少年。
しかし彼は傍観者です。
彼が何者であるか問うのは、少女漫画的文法にとって無意味なことです。
高みからの視線は、作者自身の視線です。
良しにつけ悪しきにつけ、人の愚かしい営みをただ見つめます。
しかしそれは決してシニカルな物ではなく、純粋な興味と慈愛があふれています。
もしこの少年を設定しなければ、かなりきついお話となるでしょう。


「魔法陣グルグル」 14 衝藤ヒロユキ エニックス



もう何度「これで終わりだろうな」と思ったでしょう。
終わりませんね。
もう大河ロマンになってますが、超脱力系ギャグをいかに入れるかが作者の主目的です。
適当に出した「キタキタおやじ」を、ここまで引っぱるとは思いもよりませんでした。
なんだかまだまだ序章のような気がしてきました。
作者にとってこれがライフワークってのも
素敵かも・・・・。


「新世紀エヴァンゲリオン」 7 貞本義行 角川書店



あの「エヴァ騒動」から7年も経ってしまいました。
いまだに火はくすぶり続けています。特に「レイ
レイの正体が、「真っ白けの巨大な化け物」と解った今でも、「あんなレイは俺のレイじゃない
と言うことになっています。
アニメーター出身のマンガらしく、決めポーズより構図が優先される、
実にクールな読みやすいマンガですが、その分パッションは控えめです。
コミカライズにありがちな、ストーリーの独自改変はほとんどありません。
今回は、加持くんの過去が明かされていますが、これは加筆と言うより、
TV放送時に間に合わなかった部分の補足と見るべきでしょう。
場面によっては、TVと全く同じ構図、セリフもあります。
こういう仕事は、すでに終わった作品の清書みたいな物で、辛くはないのでしょうか。
連載は途切れがちですがあと少し、頑張っていただきたいものです。


「光の島」 1 尾瀬あきら 小学館



「夏子の酒」で一躍有名になった、ヒューマニズムあふれる作家として知られています。
しかし正体は、口の悪い「べらんめえ」調のおっさんです。
この方が、最初SFを描いていたことを信じられるでしょうか。
(弘兼憲史もあの絵でSF描いてました。)
沖縄の超過疎の島に、少年がやって来ます。
彼の使命は、廃校になる小学校を救うため。
もうこれから、あらゆる問題が押し寄せてくるに違いありません。
きっと泣かそうとしています、くさいです、でも面白いです。
誰かが継承しなくてはならない、純演歌調マンガです。


「ヴァージニア」 近藤よう子 青林工藝舎



ヴァージンのお話です。
でも何か期待してはいけません。
婚期を何となく逃した、年増女性たちの連作です。
女性の処女と、男性の童貞が、いかに社会的に異なった意味を持つか思い知らされます。
地味です、暗いです、やるせないです。
でも心にしみ入ります。


「韃靼タイフーン」 3 安彦良和 メディアファクトリー



この方もアニメーター出身ですが、クールではありません。
抜群の絵の上手さと、少年マンガの王道を行く英雄譚
メガネッ子萌えも加味され、舞台設定の妙に驚かされます。
韃靼(だったん)の民アラハバキ一族の長となった青年の、ロシア内戦を絡めた近未来SFです。
政治的なお話が多いのですが、作者独自の視点、主張がしっかりと入っています。
「村上もとか」に比肩しうる、マンガ総合力最高の一人だと確信します。
驚くのは、その執筆活動のコンスタントさ、
フルカラーの書き下ろしなんてのもあります。
全く「江口寿」に、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。